「借りて住む」に新しい価値を

無印良品の考えるリノベーション | 2015.3.17

空室が増えています
近年、人口減少などが原因で「空き家」は増大しています。総務省「平成25年住宅・土地統計調査」によると、2013年10月時点の空き家数は820万戸、空き家率は13.5%で、いずれも過去最高、特に築年数の古い賃貸住宅の空室が増えているようです。

そもそも、これまで私たち日本人は、欧米に比べて「借りて住む」という住まい方の選択肢についてネガティブなイメージをずっと持ってきたのではないでしょうか。
そこには日本独特のさまざまな要因・背景があると思われますが、今回は、そのうちの一つ「賃貸住宅は、住む人が主役ではなかった」という点について考えてみたいと思います。

住み手が主役ではなかった日本の賃貸住宅
賃貸住宅は「大家さん」の所有物なので、住み手はそれを「お借りする」ため、返すとき(退去時)には、すべてもと通りにしなければならない、現状復帰をする、という契約をするのが日本の常識でした。
つまり、住まい手は、自分の暮らしのスタイルや嗜好に合わせて、例えば不要な壁を取り払うことはもちろん、壁紙を自分好みの色に張り替えることも、さらに、お気に入りの絵をかけるために画鋲の穴を開けることさえ、退去時に現状復帰をすることを考えると躊躇してしまう、ということがあったわけです。これではとても住む人が主役とは言えません。

一方、とくに都市部で賃貸住宅が当たり前の欧米では、あくまで住まい手が中心で、自分の好きな色に壁を塗り替えたり、棚を壁に打ちつけたりという、自分なりの「編集」はごく一般的に昔から行われています。欧米では、現状復帰という賃貸契約がないのが一般的なのです。
このように、住まい手が自分の暮らしにあわせて設えを変えることができるだけで、「借りて住む」ことが随分楽しくなりそうです。

日本でもこのような「借りて住む」ことの新しい価値付けの動きは広がっています。UR都市機構ではDIY住宅(住戸指定/現状復帰不要/3ヶ月家賃無料)という制度があり、MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトでも団地の住まいレポートでご紹介しています。

住まい手のための賃貸住宅リノベーション
しかし、団地の住まいレポートでご紹介しているような、自分で全部つくり変えるDIYをするにはスキルも時間もない、でも自分の思う通りの間取りや使う素材にもこだわりたい、という方も多いのではないでしょうか。

そこで、賃貸住宅に空きが出た場合、そこを借りて住みたいという方を修繕工事の前に募集して、住まい手と大家さん、そしてそれを実現する建築家などのプロとチームを組んで、一緒にリノベーションをしてしまうという取り組みもあります。
住まい手が先に決まっていて、その人のためのリノベーションであれば、「大家さんがお金をかけて修繕工事をしても、誰も住んでくれなかった」というリスクを避けられます。大家さんは空室が出た場合、いずれにしてもお金をかけて修繕工事しなくてはならないのですから。

もし、大家さんの予算以上のリノベーションを住まい手が望む場合は、大家さんと相談の上「住まい手が一部負担する」あるいはその部分だけ「住み始めてからDIYしてしまう」ということもできそうです。
今までのような現状復帰は必要なく、住まう人と大家さんが新たな価値をリノベーションで実現することで、同じ価値観やライフスタイルを持った人が集まってくるということも期待されます。
住まい手がわからないまま修繕工事を繰り返すよりも、よっぽど「住む人が主役」ではないでしょうか。

住まい手が決まっているからこそ、思いきったリノベーションができて「借りて住む」がうんと楽しくなり、しかも大家さんにもメリットがあるこの仕組み、皆さんはどのように考えますか? ご意見をお聞かせください。