「郊外に住むこと」アンケート結果から

住まいのかたち | 2009.9.1

先月に実施しました、家とまち「郊外に住むこと」についてのミニアンケートでは、郊外の戸建てに暮らすことについて、皆さまからたくさんのアイデアやご意見をいただきました。ありがとうございました。
郊外ならではの自然豊かな環境と、戸建てならではの自分の庭を、いかに日々の暮らしのなかに取り込み楽しむか、またそのためにも「向こう三軒両隣」の良好な近隣関係をいかに育むか、多くの方の関心はそこにあるようです。今回はその一端をご紹介させていただきます。

→家とまち「郊外に住むこと」についてのミニアンケートの結果発表はこちら

郊外の住宅街の理想のかたち
近所には広い公園や遊歩道があり、池や小川の美しい水辺もある。いつでも気軽に家族で自然散策できて、ジョギングや犬の散歩にも最適、それに高い建物がないから空が広い。サイクリングでちょっと足をのばせば、田園風景がひろがり、地元でとれた新鮮な野菜もすぐ手に入る。それが、誰もが思い描く郊外の理想のかたちのようです。

そんな郊外の一画に、美しい街路樹が並ぶ戸建ての住宅街はあり、家々のデザインはほどほどに統一感があり街並みが清々しい。家々の庭の手入れは隅々までいき届いていて、そこにはその街に暮らす人たちのモラルやマナーの良さがにじみ出ている。共に暮らすマナーを大切に思う人たちが集い住まうから、街は素敵になり暮らしやすくなる。だから、同じ住宅街に共に暮らす者同士、お互いに暮らしのマナーを大切にしたい。
アンケート結果から、それがとても印象的に見てとれました。そのモラルやマナーを、同じ価値観や美意識を共有する人たちの暗黙のルールと言ってもいいかもしれません。

家と家の間と、庭の関係について
暮らしのマナーを大切に思う人たちが住まう街なら、家と家の間を仕切る塀は低くていい。それも冷たい印象のアルミ格子の塀よりも、緑の生垣がいい。
そして、家と家の境界線さえ明確であれば、視覚的にはお隣さん同士で庭を共有できた方がいい、塀についてはさまざまなご意見はあるものの、そんなアンケート結果だったように思います。

そこで、家と家の境界線を明示するための塀をより積極的に、そして素敵にデザインすることが、前回このコラムで提案した「家と家との間をデザインする」ことに直結するのではないか、敷地の境界線を庭の一部としてきちんとデザインすることが、お隣さん同士のプライバシーを守りながら、庭を共有化し一体化するためにとても重要なことだと、あらためて認識しました。

また、庭には広いウッドデッキが欲しいというご意見が多くありました。ウッドデッキは、昔風に言えば「濡れ縁(えん)」。室内と庭をつなぐ伝統的な仕掛けのひとつです。デザインや呼び名は変わっても、日本人ならではの住まいへの想いは今も昔も変わらないのですね。家庭菜園を楽しみたいという人も多く、それも郊外の戸建て住宅だから可能なことではないでしょうか。

共用施設への想い
最近の分譲マンションの多くは、共用施設がとても充実しています。アンケートによせられたコメントから、多くの人が集まって住まうのだから、戸建ての住宅街にもそうした共用施設があってもいい、と考える人は増えているようです。それは、たんなる集会室ではなく、より積極的に郊外生活を楽しむための”クラブハウス”のようなイメージなのでしょう。
そこには子どもたちは思い切り遊べるような広い芝生の庭もあり、バーベキュー・パーティもでき、来客用の駐車場もある、今回のアンケートではそんな共有施設のアイデアをたくさんいただきました。

そして、特に注目すべきことは、図書館を望む人が多かったことです。
郊外の暮らしと読書、確かによく似合います。施設の一画に本棚を造れば、図書コーナーも十分に実現可能ですし、児童館にもなります。ミニコンサートを開催してもよいでしょう。さらに、キッチンスタジオを併設すれば、ホームパーティや料理教室はもちろん災害時の活動拠点にもなります。

人と人との絆を育む街づくり
郊外の戸建ての住宅街は、新しく開発された建て売り住宅がほとんどです。そこには見ず知らずの者同士が暮らし始めることになり、誰もが隣人への期待と不安をあわせ持つに違いありません。同じ街に暮らす者同士、早く顔見知りになりお互いの気心を知り安心したい。そのきっかけづくりが共有施設の役割でもあるでしょう。それは、「向こう三軒両隣」の良好な近隣関係を育む装置なのです。
そして、共に暮らすモラルやマナーと同時に人と人とをつなぐ絆が醸成されていく、それが素敵な街づくりの原動力になる。アンケートにお答えいただいた方々は、そのことをよく理解され望まれている。あとは街を開発し家を設計し建設する側の問題だ、そのことを実感させられたアンケート結果でした。

2009年9月1日配信 無印良品の家メールニュース Vol.150より