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インタビュー
住まいの安全について
column | 2009.3.13

皆さんは「構造」という言葉を聞いて、何を思い浮かべますか?
ここ数年、耐震強度や材料性能の偽装など、建築物の「構造」や「強度」に対する信頼を揺るがすような問題も相次ぎました。国は法制度を改正し、建築確認を厳格化するなど信頼回復に努めていますが、「難しそう」「とっつきづらい」といったイメージを抱く方が多いのではないでしょうか。

こうした専門的なイメージが根強い「構造」の知識、住まいの安全性について、一般の人にわかりやすい形で伝えようと、全国を駆け回っている方々がいます。今回はその中の一人、構造設計者で東京電機大学未来科学部建築学科教授の今川憲英氏にお話を伺いました。

日本の建築物の寿命は50年?
今川氏は、名刺に「外科医的建築家」と肩書きを入れています。今川氏は13年前、49歳のときに心筋梗塞で倒れ、生死の境をさまよいました。緊急手術により一命は取り留めましたが、約1カ月の入院生活を余儀なくされ、そのとき、病に倒れた自分の身に重ね合わせたのが日本の建築物だったそうです。

日本の建築物は一般に、耐用年数が40~50年と言われます。ビルやマンションの多くは、人間の年齢でいえば49歳前後で解体され、建て替えられてきました。高度経済成長やバブル景気といった右肩上がりの経済状況下では、それが当たり前のように思われていたのです。しかし近年、地球規模で「エコ」への取り組みが進む中、まだ使えるにもかかわらず壊されていく日本の建築物に対し、今川氏は、もっと「長生き」させたいと強く思ったそうです。

建築物の劣化には大きく分けて、「建築物自身の構造的な劣化」と「素材自身の劣化」の2種類があります。ここでいう素材とは、木造建築でいえば「木」のことを指しますが、例えば、シロアリの被害を受けると木は急激に劣化します。
そのほか、建築に使われる素材にはレンガや鉄、コンクリートなどがありますが、素材によって劣化の仕方が異なります。コンクリートなどは、長い建築の歴史から見れば比較的新しい素材ですが、酸性雨などの影響を受けて中性化するといった劣化がこの20年間で目立ち始めました。この中性化さえ止めれば、コンクリートは100年以上耐え得る素材なのですが、それに大きく及ばない、極めて短い期間で寿命を迎えているのが現状です。

骨組みを補強すれば寿命は延びる
では、そうした劣化に対し、私たちは指をくわえて見守ることしかできないのでしょうか。何かできることはあるでしょうか。人の身体に例えると、骨が弱くなっても、骨や関節を支え補強する仕組みさえあれば、日常生活程度なら問題なく送れるようになります。建築にもそうした「整形外科的」な手術を施せば、つまり、現状の骨組み(構造)を維持しながら耐力的な不足を補いさえすれば、建築の寿命はもっと延びるのではないでしょうか。

>横浜赤レンガ倉庫は築100年以上にもなるレンガ造の歴史的建築物です。国の模範倉庫として建てられたものを文化/商業施設として再生するプロジェクトでした。
レンガは500年以上も持つといわれる長寿命素材ですが、レンガとレンガとつなぐ目地(継ぎ目)はその10分の1、約50年で劣化します。レンガ自体は丈夫でも、それをつなぐ目地が弱ってしまうと、建築物全体の強度を大きく低下させてしまうというわけです。

実際、改修前のレンガ壁には、目地部分を中心に多数の割れ目が見られたそうです。今川氏は、目地にエポキシ樹脂を注入し、割れ目に浸透させることで壁の強度を高めました。これにより、レンガは本来の耐久性を発揮できるようになり、建築物の外観にほとんど手を加えることなく内部空間の大規模リニューアルを実現したのです。

今川氏は、木造住宅の耐震診断も多数手がけてきました。いずれ必要になる改修作業をどうすれば小規模に抑えられるか。「手術」が必要となるような大規模な改修はできるだけ避け、「通院」レベルの比較的軽度な治療で済ませる方法はないだろうか。耐震診断や新築工事にかかわる中で、今川氏はその手法を模索しました。

同時に、住まいの安全性について、一般に理解度が低いこともわかってきました。建築の専門家として、情報を発信する努力、伝える工夫が不足していた責任を感じながら、一般の人が自分で家の安全性をチェックし、メンテナンスできるような知恵や知識を発信できないかと考えました。その実践の場として企画されたのが「住まいのクリニックセミナー」(主催:エンジン01文化戦略会議)です。

セミナーでは、家の安全性、「病気」の原因を大まかに把握し、自分でメンテナンスするためのノウハウが提供されます。家の図面や構造計算書を見ながら耐震診断リストにチェックするだけで、どれだけの力に耐えられるかを判断できるようになるそうです。
セミナーの内容や成果はいずれ書籍としてまとめる予定で、一家に一冊常備される、いわば建築版『家庭の医学』のような書籍にしたいと今川氏は話します。

住まいを考える上で、皆さんが重視していることは何でしょうか。間取りや広さ、価格、周辺環境、通勤/通学の利便性などさまざまなご意見があると思いますが、家の基本構造や耐震性、耐久性については、意外と見過ごしがちではないでしょうか。
「○○の大黒柱」という表現があるように、家の構造は日々の暮らしを支える大切な要素です。皆さんも、自分たちの住まいの安全性を確認してみませんか。

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