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寄稿
どこに住みたいのですか/柏木博(デザイン評論家)
column | 2008.10.1

どこに住みたいのですか

かつて、人々の生活道具などを克明に記録することを実践し、それを「考現学」と名付けた今和次郎は民家の研究でも知られています。彼は住まいに関する多くのエッセイを残しています。彼のエッセイの中でも、わたしはときおり気になって読み返しているものがあります。彼は次のように述べています。

「建築学の講義は土台のすえ方からはじまっている。また家を南に向けようか北へ向けようか、くらいまでは論ぜられているが、もっと放逸な欲望については論じていない」

つまり「住まうにはどこがいいか、田舎がいいか、都会がいいか、どんな田舎がいいか、都会ではどこがいいか」といった住む場所のことから、住宅は考えられるべきなのに、そのことにあまり目をむけていないというのです。そして日光の山奥原生林からはじまって武蔵野のくぬぎ林、そして東京の街にいたるいろいろな美しい風景をみずから思い起こしています。

たしかに、住宅はほかのものとはちがって、土地つまり場所に固定されています。だから「どこがいいか」という問いかけが出てきます。もちろん、わたしたちは、のどかな里山に住みたいなどと思っても、そんな贅沢がすぐにかなうわけではありません。

けれどもとても大切なことは、どこに住まいをつくるかによって、かつては住まいの素材や形はちがっていたのだということです。茅が豊かにとれる地域では屋根を茅で葺き、栗の木が多い場所では「栗のへぎ」で葺きました。風がどちらからくるか、湿気はどうか、それぞれの地域によって住まいのデザインがちがいます。それは住まいの心地良さに深くかかわっています。今和次郎はそのことを言いたかったのでしょう。

たとえば、アメリカの画家ジョージア・オキーフは、後半生をニューメキシコですごしました。彼女は、その地に古くからあった伝統的な住宅を手に入れることを夢見て苦労し、それを実現し生涯をそこですごしました。ニューメキシコのアドビと呼ばれる、ピンク色の土で塗り固めた厚い壁は、砂漠地帯の気候の中で心地良い住まいをつくります。暑い夏にもひんやりとした室内をたもちますし、寒い冬の外気からもまもります。そしてなによりも、その地域からとられた素材による住まいは風景にもとけ込んでいます。その心地良さが味わいと美しさを生み出しています。

「どこに住みたいか」。この今和次郎の問いかけは、いまもって贅沢ではあるけれど、住まいの本質にかかわっているようです。

柏木 博

デザイン評論家。武蔵野美術大学教授。近代デザイン史専攻。1946年神戸生まれ。
著書に「モダンデザイン批評」「日用品の文化誌」ほか多数。新著は「玩物草子」(平凡社コロナ・ブックス)。

2008年10月発行 無印良品の家カタログより

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