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寄稿
これからの家のものさしとは
column | 2010.12.14

私たちの住みたい家の大きさはさまざま、見つけた土地の形状もさまざま、日当たりの良さもさまざま、そして私たち建築家の提案する家の形もさまざま。それでも家をプロデュースする立場として貫きたい共通の要素、それは快適で省エネルギーな家、すなわちわたしと地球に優しい家。テーラーメイドの家づくりのために、新しい省エネのものさしが必要です。

その新しいものさしを使って、家の一軒一軒の温熱性能を計ることによって、日陰が多い家も、でこぼこした家も、窓の大きい家も、小さい家も、必ず最適な温熱環境と、省エネ性能を発揮することができるはずです。太陽エネルギーや風を最大限活用できる郊外型の家と、隣家が間近に迫る密集地の家とでは、おのずと省エネデザインのアプローチが変わってくることも、そのものさしは教えてくれるのです。

使うものさしが決まったら、次にそれを使ってこれからの家に求められる省エネ性能を定義しなくてはなりません。ここで仮に、ルームエアコン一台で家中が快適な温度に保てる家を目指すことにします。いわゆる日本の普通の家に暮らす私たちには、なかなかこの省エネ性能をイメージしにくいかもしれませんが、たとえばその家は、冬でも上下階の室内温度の差がほとんどなく、不快な空気の対流が起きません。
この居住空間では、窓の結露などは一切起こらず、真綿に包まれるようなやさしい温かさを体感することができます。夏は屋根や窓からの熱の侵入を効率良くシャットアウトした上で、日本の先人の知恵でもあったように、室内の風通しを良くして涼を取ります。仮に外の騒音や、セキュリティの問題から窓を完全に閉め切っても、ルームエアコン一台で家全体を涼しくさらっと保つ事ができるのです。

このような家は、非常に快適であるだけでなく、驚異的な省エネ性能を発揮します。もちろんルームエアコンを薪ストーブに替えたら、更に省エネ性能が向上します。

ところで家が必要としているエネルギーは、冷暖房だけではありません。お風呂好きな私達日本人は、なんと西洋人に比べて3倍の量のお湯を毎日消費すると言われています。けれどもこの毎日の暮らしに欠かせないお湯は、その大半を太陽のエネルギーから直接作りだすことができます。
そしてこの方法は、どんな高性能な設備よりも省エネなのです。そうやって家全体のエネルギー需要をまず根本から見直し、より少ないエネルギーで快適な暮らしが実現できるようにしてから、必要なエネルギーは外から運ぶ、もしくは太陽光発電などで生み出す、という正しいステップが、地球にやさしい家づくりには欠かせません。

そんな省エネデザインの正しいステップを、私は省エネ先進国ドイツで生まれたパッシブハウスの思想から学びました。パッシブハウスはルールに縛られた省エネ住宅の一つの解ではなく、ありとあらゆるデザインコンセプト、そして立地条件において一定の省エネ性能を担保するための設計手法です。この基準を確立したドイツのパッシブハウス研究所とは、性能は妥協せず、なおかつ設計段階で無駄を省いて手の届くコストを目指す、ある意味無印良品みたいな思想を掲げたシンクタンクと言ってもよいでしょう。

ヨーロッパ式の省エネ住宅は、魔法瓶のような家づくりなのではという誤解が多いのですが、必ずしもそれは正しくありません。窓を小さくしてしまいがちな魔法瓶の家づくりではなく、ペアガラスやトリプルガラスに代表される高性能なガラスを、適切な方向に大きく設けることによって、太陽のエネルギーを有効利用することができます。これまでのような単板ガラスの窓では、東京のような温暖な冬であっても、利用できる太陽エネルギーよりも家の中から外に逃げてしまうエネルギーの方が、はるかに上回ってしまうのが問題でした。

また、エコハウスといって真っ先に連想される方も多い、木をはじめとする自然素材を使った家づくりでは、家が生まれる瞬間とその役目を終えて解体される瞬間の省エネに貢献しております。一方今回のコラムでは家の使用中の省エネに焦点をあてており、その両者を足し合わせなければ、建物の一生涯を通じた省エネ性能というのは計れないということを、知っていただきたいと思います。

まずはものさし作りから始まる私たちの未来の家プロジェクト、これから是非皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

森 みわ

1977年生まれ、東京都出身。横浜国立大学で建築を学んだのち、ドイツのシュトゥットゥガルトで大学院学士修了、ドイツ・アイルランドの建築事務所にて省エネ施設やパッシブハウスの建築プロジェクトに携わる。
2009年に設計事務所キーアーキテクツを設立。ドイツ発祥省エネ基準「パッシブハウス」を日本で初めて建築。著書に「世界標準の『いい家』を建てる」(PHP研究所/2009)。
2010年より東北芸術工科大学建築・環境デザイン学科客員教授。

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