中国のマンション事情

住まいのかたち | 2009.8.25

以前コラムでお伝えした「スケルトンハウスについて」という考え方について、皆さまからたくさんのご意見をいただきありがとうございました。
スケルトン(構造体)で購入し、自分好みのインフィル(間仕切りや設備)を自分で自由につくりこんでいく合理的な手法に対して共感いただく声をたくさんいただきました。
日本ではこのような取り組みはまだまだ少ないですが、海外ではどうでしょうか?

ヨーロッパでは築100年、200年という建物はめずらしくありません。地震が少なく石の建物(組積造)である、というハードな要因と、建物を長く大切に使うというソフトの要因が重なり、築年数の長い建物が多く存在しています。そのため、自分達でインフィルを”しつらう”ことが当たり前になっているのです。
アメリカの場合でも、メンテナンスの行き届いた家は築年数が増えても値段が下がるどころか上がります。では、中国はどうでしょう?私が昨年中国へ出張したときに、現地のデベロッパーの方から聞いたお話をお伝えします。

「スケルトン売り」の経緯
中国ではマンションはスケルトン(構造体)の状態で購入し、インフィル(間仕切りや設備)は自分達でつくるというのが主流です。中国でこの「スケルトン売り」が主流になった経緯は欧米とは少し異なっています。
かつての中国は社会主義体制を推進していましたので、個人が家や土地を所有するという概念自体がありませんでした。家も土地も、国や人民公社と呼ばれた集団農場・国営企業の所有物に過ぎなかったのです。

人民公社に勤める都市部の労働者は、公社から格安の賃料で社宅を借り受けていました。この社宅は水漏れをしたり、防音性能、断熱性など基本性能が満たされていなく、住人達は非常に苦労をしたそうです。
しかし、格安の賃料で暮らせることは大きな魅力で、多額の賃料を払ってまで引っ越す人はほとんどいなかったそうです。不満の声がほとんど無いので、社宅をつくる側も品質向上への努力をせず、このような社宅が乱立したのです。

時代は大きく変わり、市場経済を導入したその後の中国の発展は皆さんもご存知の通りです。現在では社会人の90%もの方が民間企業に勤めるようになっています。そうなると企業もただ同然で社宅を貸すわけにはいかなくなったのです。

すると今度は住民側からはクオリティに対する不満が出てきました。
それなりの賃料を支払っているのに、水漏れのする住まいに不満が出てきたのです。収入の増えた住民達はもう少し賃料を払ってでも快適な住まいを求めるようになりました。
しかし、住民達はこれまで住んできた社宅をつくってきた会社がつくるマンションに対して、また不具合があるのではないかと不安を抱いていました。そこで、スケルトンだけを購入し、インフィルは自分達で工事をするという考え方が生まれたのです。

その結果、中国ではマンションの「スケルトン売り」が主流となったのです。ですから、日本の我々よりも中国の方たちの方がインフィルに対して身近に感じ、興味も持っているのかもしれません。

家づくりを考えること
この話を聞いたときに中国の方たちが羨ましいと感じました。日本では分譲住宅を購入する多くの場合、自分でインフィル(間仕切りや設備だけでなく、キッチンやお風呂、床材など)を考える機会がなく、あてがわれたものを使っていくことがほとんどです。
住空間はそこで暮らす人の住まい方、生き方にも影響を与えます。自分達の趣味、これからチャレンジしたいこと、家族との関係の変化。家づくりを考えることは、これまで気づかなかった自分や家族の価値観を考えることかもしれません。

これから家づくりをする方、ぜひ間取りからドアノブひとつまで納得のいくまで考えてみてください。一見良く見えても数年でめっきがはがれてきてしまうものがあります。いつまでも愛着を持って使える素材のものを選ぶことも地球環境を考える機会になります。
(ちなみに無印良品の家でつくっているオリジナルの部材、MUJI INFILLはそのような観点も含めてつくられています。一部の商品はネットストアでも紹介されていますのでご覧ください。)

実は、中国でも最近では「スケルトン売り」が減りつつあるそうです。収入の増えた住人達の中にはインフィルづくりが面倒に思え、結局業者に依頼をするようになっているそうです。大型マンションでは常にどこかの住戸で工事が行われていて、ストレスに感じてしまうから、というもの理由のようです。

そのため、日本と同じようなインフィルまで完成されたマンションが人気を集めるようになっているのだそうです。
せっかくの家づくりを考える機会がなくなり、少し残念にも感じられます。中国のマンション事情の変化について皆さんはどのように思いますか?

2009年8月25日配信 無印良品の家メールニュース Vol.149より