これからの家の性能を考える

住まいのかたち | 2015.7.7

日本の現在の家づくりは、ハウスメーカー主導の家づくりであり、戦後の圧倒的な住宅不足を背景にスタートしました。
少しでも欧米諸国の住宅に追いつきたいというモチベーションのもと、家を大量生産することでリーズナブルに供給するシステムが時代にマッチし、今日に至っているように思えます。
すべての国民に少しでも豊かな家を、という思いで家をつくり続けた結果、1968年(昭和43年)には住宅が2,559万戸、世帯数が2,532万世帯と、世帯数を上回り、住宅は数の上では充足しました。
今では住宅が6,063万戸、世帯数が5,245万世帯と、空き家が約820万戸となり、逆に家が余っていることが問題になっているほどです。

そして「量」が充足した後、求められたのは、「質」です。
私たちは、暮らしを支える「家」に対してどの様な「質」を求め、そして「家」はそれにどうこたえて進化してきたのでしょうか。

戸数の充足後、暮らし方が核家族へと大きく変化し、例えば4人家族で50㎡以下という小さな家がやっとだった反動からか、まず私たちが求めた「質」は、「広さ」と「部屋数」でした。広さや、部屋数の多さが家のステータスになったのです。
この広さも、意外かもしれませんが、実は平成15年には、目指していたヨーロッパ諸国(さすがにアメリカにはかないませんが)に少なくとも統計的には追いついているのです。

戸当たり床面積の国際比較(壁心換算値)

一方で「性能」という「質」の方はどうでしょうか。
大きく家の性能を分類すると、

1:構造性能
2:防火性能
3:耐久性能
4:温熱性能
5:空気環境性能
6:光環境性能
7:音環境性能
8:バリアフリー性能

と分けられます。(国土交通省告示「日本住宅性能表示基準」(PDF) に準ずる)

これらの家の性能は、永く安全に、そして快適に過ごすために家が本質的に備えていなければならないものですが、「広さ・部屋数」のように明らかに目に見える「質」と比べて、進化がそれほど進んでいないというのが現状ではないでしょうか。

下の「住宅の評価の推移」を見てみると、住宅全体に対する評価は「不満」の割合が、1988年(昭和63年)から2013年(平成25年)にかけて不満率51.5%→21.5%と大幅に減少しています。

住宅の評価の推移
資料:「住生活総合調査(平成25年)」(国土交通省)

一方で、「住宅の各要素の評価」では、2013年(平成25年)においても、構造の安全性や省エネ性、断熱性能など、「目に見えない性能」に対する不満率が相変わらず高いことがわかります。
今回は特に、4:温熱性能5:空気環境性能について注目してみましょう。例えば、冷暖房などの省エネルギー性などは、約46.7%の方が不満に思っています。
以下のデータからも、これらの「目に見えない性能」がその他の進化についていけていない、とも言えるのではないでしょうか。

住宅の各要素に対する評価(不満率)(全国)
資料:「住生活総合調査(平成25年)」(国土交通省)

家の「目に見えない性能」は、私たちの暮らしを豊かにするために必要なものであり、もっと実感を持てるように進化をするべきなのではないでしょうか。
その本当に必要な進化に向かっていま、国の制度も動き始めています。
2011年に制定された長期優良住宅認定制度は、日本の住宅をより高性能にし、快適に永く暮らせるようにしていこうという主旨でしたが、「推奨」であって「義務化」ではありませんでした。
しかし今から5年後の2020年に、日本の住宅史上初めて、一定以上の省エネルギー性能を持つことが「義務化」されること、あわせてZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及を図ることが国土交通省より発表されています。

ゼロ・エネルギーハウスとは、ものすごく簡単に言ってしまうと使用するエネルギー(電力)がゼロの家、ということです。そう聞くと、夢のような話に聞こえますが、実は家そのものの進化というよりは、太陽光発電や高効率エアコン、蓄電池の技術進歩により、今は家の断熱性能をある程度上げたうえで、これら設備にお金をかければ、実現可能なところまで来ています。
つまり、全くエネルギー使わないのではなく、エアコンにエネルギーを使った分を太陽光発電で発電すれば、「プラスマイナスゼロ」のエネルギーハウスとなるわけです。

しかしこれでは結局、家の快適温度コントロールはエアコンに頼ることになります。そもそも、エアコンによる温度コントロールが本当に暮らしに快適なのか、という疑問が残ります。

そこで無印良品の家では、エアコンなどの機械装置になるべく頼らずに自然のチカラを最大限に活かし、より少ないエネルギーで快適な室温を保つ家づくり、「パッシブデザイン」を目指しています。
風向きをシミュレーションし、風通しのいい家にすることで、エアコンをつける時期を遅らせる暮らしは可能ですし、夏のすだれと冬の夜間のブラインドの使用で、エアコンの設定温度を抑えることで、年間冷暖房費=エネルギー(電力)を半分にすることもできます。庇(ひさし)や、窓の位置、大きさなどの工夫で太陽と風を味方にし、日中に電灯をつけなくても明るい家や、夏に涼しく、冬の日射熱をたくわえた暖かい家を実現することもできます。
暮らしの知恵と工夫、土地の条件や住む人の生活を考慮し、きめ細かく調整しながら間取りを考えることで、エネルギー(電力)を使う家電に頼ることなく、本当の快適性をそなえたエネルギー効率の良い家をつくることができるのです。

この先、無印良品の家では、すでに技術的に実現可能な「実質エネルギー(電力)がゼロで、エアコンが使えて快適な家」ではなく、さらにその先の「エアコンというエネルギー(電力)に頼らなくても快適な家」を目指したい、夢のような話ですが、その夢に少しでも近づきたいと考えています。
これからの家にとっての「夢の性能」とは、ゼロ・エネルギーよりさらに高い次元の「エアコンに頼らない家」であると考え、これからの家の性能を見直していきたいと考えています。

次回このコラムでは、少しでも夢に近づく家とはどんな性能なのか、具体的にお話したいと思います。
エネルギー(電力)を使わない家について、皆さんはどのようにお考えになりますか。ぜひご意見をお聞かせください。