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楽しく知る「中古住宅 + リノベーション」
リノベーション基礎講座
update | 2015年10月25日

講師:石井 健(blue studio

「なぜリノベーション?」

暮らしに合わせて家をつくる

暮らしにあわせて家をつくる。
そんな思いから、中古住宅を買ってリノベーション(=改装)を行う人が急速に増えています。

「私たちの暮らしはこれから成熟期に入ろうとしている」と、よく聞くようになりました。
「本当に大事なことは何か?」について考えたり、ものを大切にするていねいな暮らしに価値を見出したり、日々の暮らしに“物語”を求めるようになったり。これまでとは違う、新しい“クオリティ・オブ・ライフ”が求められています。
そんな中、当然「家」にも変化が訪れています。「家」は暮らしを覆う箱だからです。

都心で住み替えを前提とした一人暮らしから、郊外で終の住処として家づくりをする人まで。ふつうの暮らしをゆるやかにカスタマイズする人もいれば、確固としたコンセプトのもとに個性的な暮しを満喫する人もいます。暮らしぶりの多様化に合わせて、家のありようも、本当に多様になってきました。

住まいは買うもの?つくるもの?

多くの人々にとって、家とは「買うもの」「選ぶもの」という認識があるのではないでしょうか。新築マンション・建売住宅・ハウスメーカーが提唱する商品等から「選ぶ」。 建築家やデザイナーにオーダーした理想の住まいに住むなんて、お金持ちにしか実現できない世界に違いない。そう、思いこんでいる人が多いのではないでしょうか?

リノベーションは、家を「選ぶ」のではなく「つくる」という選択肢です。
しかも同じ地域で同じ広さの物件を新築と比べてみると、リーズナブル。また、広範囲に多様な物件があるため、住みたい街に住みやすい。中古住宅なら価格下落による資産価値の目減りが少ないため、終の住処ではなくライフステージにあわせて住み替えることができる。そして贅沢なバス空間を部屋の中央に配置するなど、「自分仕様」がとことん追求できる。

つまり、リノベーションとは「立地、建物の状態、間取り、デザイン、お金、売りやすさ・貸しやすさ」を自分の好きなように選択でき、そのときの自分にあった暮らしをつくる(=編集する)ことができるのです。
ひとりひとりが、それぞれのストーリーに沿ってつくり上げた、賢くて楽しい住まいのかたち。それは同時に、誰にでも実現できる住まいの選択肢でもあります。

「間取り」を味方につけよう

「家づくりは、間取りである」。そう思っている人は少なくありません。が、この「間取り」というやつは厄介で危険な存在です。接し方を知らないと、知らず知らずのうちにあなたの暮らしから大切なものを奪ってしまいます。しかし、味方につければ未踏の境地に連れて行ってくれる。それが「間取り」というものなのです。

「間取り」という言葉は『間』を『取って』『仕切りを成す』に由来します。昔は、畳(間)を一定の様式で並べ(取って)、壁・襖・障子などで仕切り、その全体を「間取り」と称していました。部屋の広さを畳の枚数で換算する慣習は、その名残です。
戦後の人口増加と近代化にともない団地で発明された間取りシステムが、後のマンション大量供給時代に○LDKシステムに進化しました。それは「食べる・寝る・くつろぐ」 を分け、個室を設けることでプライバシーを確保する生活です。
それから約半世紀。今日においても、この○LDKという住まい方が主流になっているのです。

既成品としての○LDKは、確かにいろいろな面で便利です。住む側も選びやすいし、つくる側・売る側も市場調査、設計から広告に至るまでコントロールしやすい。まんべんなくそこそこな住居を生産する上では、非常に良くできたシステムです。
ですが、その代償が大きいのも事実。ひとつには「家の構成=○LDK」と一足飛びに答えがでてしまうため、「暮らし」について考える機会が損なわれてしまうこと。ふたつ目は、規格化・大量生産された形は一見、効率的に思えますが、いざ住んでみると意外と無駄も多いということ。これは、どんなに高価なブランドの服でも、サイズが合わなければ着ていて心地よくないのと同じです。

人の暮らしは、意外と複雑です。朝、どんな気持ちで目覚めるか?「料理をつくる」「食事をする」とは、どんな意味があるのか?子供にどのような環境で勉強をさせたいか?いつ、何のためにお風呂に入るのか?など、考え始めるときりがありません。ところが○LDKというやつは「寝るときは個室に入りなさい」「リビングを用意したので団欒しなさい」「お風呂は孤立して入りたいですよね?」など、いろいろと親切にしてくれます。そして、寝るのは6帖、テレビ観るときは10帖、などとおせっかいにも広さまで決めてくれます。確かに、それで大きな不満を感じることはありません。でも、どこか違和感や疑問を感じる人もいるでしょう。「わたしの家ではあるが、わたしの意思はどこにもない」と。
ひょっとしたら「既成の間取り」の便利さと引き換えに、私たちの暮らしは型にはめられ、「私らしさ」や「本当の心地よさ」を失っているのかもしれません。

キッチンはあくまで調理するための「設備」と捉える人もいれば、家族の中心となる「場」と考える人もいます。広いキッチンはいらないけれど、10人集まれるダイニングが欲しい人もいるかもしれません。まず理想の生活シーンがあり、そのために本当に必要な環境に思いを巡らせてみましょう。

マンションでの間取り変更は、いろいろと制約が多いと思い込んでいる人はたくさんいます。しかし「スケルトン」(=一度既存の内装を取っ払って、空っぽの箱の状態にすること)にして、自由で自分らしい間取りをつくることもできるのです。

住みたい街をあきらめない

あなたにとって、どこまでが「家」でしょうか?お隣さんの家、窓から見える風景、商店街、駅までの道のり、大きな並木道、近くにある川や大きな公園――。街は、あなたの毎日と深くつながっています。そう、街は「家」の一部なのです。

毎年、賃貸市場では「住みたい街ランキング」が発表されます。部屋を借りた人にとって「この街が好きだから」が一番の理由であることも少なくありません。
では、家を「買う」場合はどうでしょうか?多くの場合、価格を考えると「住みたい街に家を買う」とはなかなかいきません。「買う」と「借りる」では、判断基準が変わってくるのは当然ですが、そんな時、リノベーションに目を向けてみれば、その自由度は格段に広がります。今や中古住宅は増加の一方で、さまざまな物件が広範囲に点在するからです。

例えばあなたが「港区や渋谷区の中心地に家を買いたい」と思ったとします。駅でいえば、表参道、恵比寿、代官山等。有名ブランド店が集まり、裏通りには新進気鋭のセレクトショップや有名美容院が点在する人気エリアです。当然、価格もかなり高め。新築マンションならば6~70m²で一億円以上になることも珍しくありません、ローン返済だけで月30万円になるでしょうか。ところが中古マンションに目を向けてみると、4,000万円台の物件もちらほら……。リノベーションに1,000万円かけても新築と同じ広さ・立地の物件が、約半額で手に入れられるのです。

「そうは言っても、古いんでしょ?」と思うかもしれません。でも「都心で家を持つ」ことは資産にもなる、ということを忘れないでください。マンションは購入後すぐに資産価値が下がるといわれます。しかし、それ以降は価格が安定します。最初から古いマンションを手に入れてリノベーションすれば、元の物件価値は下がらないため、売る際の損失も軽減できるのです。

ところで、耐震性能だけは(竣工した年代によっては)変えらないことを覚えておきましょう。マンションの耐震性能を評価する上での一つの目安は1981年の法改正です。これを境に改正後を「新耐震」(大凡1983年以降に竣工したもの)、「旧耐震」(新耐震以前のもの)と総称されています。個別の建物性能は設計・施工・地盤・メンテナンスなど多くの要素に左右されますが、一般の方が耐久性を判断する上での初期的な指標としては有効です。また、税制や瑕疵保険加入の観点からも優位な点があります。

参考までに阪神淡路大地震のマンションの被害調査では下記の様な結果が出ています。

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東京都には駅が930あるそうです。首都3県(千葉、埼玉、神奈川)をあわせると合計2034もの駅があります。好きな駅の順位や、ブランドイメージを持つ人もいるでしょう。その街に住む人集まる人、駅前の店、文化、匂い、時間の流れ。仕事帰りに気軽に寄れる飲み屋、行きつけのカフェ、愛犬を思い切り遊ばせられる公園、ジョギングにはもってこいの運動場。それぞれの街に個性があるのです。「住みたい街に家が買える」―—なんて理想的!リノベーションには、家だけでなく街を選ぶ楽しさもあるのです。

中古住宅は資産価値の目減りが少ない

リノベーションは、特殊な手法なのでしょうか? いえ、決してそうではありません。中古住宅を購入し、好きに内装をしつらえ、快適に暮らす。これだけのことです。ただし、その過程で自分にとってのホントの理想についてはきちんと見極めることが大事です。そもそも住まいの最適化こそがリノベーションの最大のメリットなのですから。

骨格となる物件も、特殊である必要はありません。古くて安価な30年前の新婚者向け物件から高級なヴィンテージマンション、あるいは新築されて間もない近代的なマンションまで対象になります。また20年間ほどを見越して、ライフスタイルの長期的な変化に合わせた計画でもよし。5年間ほどの短い期間に限って計画するのもよし。組み合わせや戦略は豊富にあります。初期コスト、毎月の支払い、将来計画等にあわせて物件と内装を組み合わせればよいのです。

リノベーションがあたりまえの選択である欧米では、文化的な背景や開発ルール等の理由で、歴史を経た建物を最大限利用し、街並を劇的に変える事なく時代背景に応じた生活空間をしつらえてゆく習慣があります。一方、リフォームとは和製英語で、もともとはサイズが合わなくなった洋服を手直しする意味で使われていた言葉です。

あえて定義するならば、

・ リノベーション=新築時の目論見とは違う次元に改修する(改修)
・ リフォーム=新築時の目論みに近づく様に復元する(修繕)

といえるでしょう。 すなわち、「リフォーム」がモノ(=ハードウェア)を新しくすることによって価値を復元する行為であるのに対し、「リノベーション」はライフスタイル(=ソフトウェア)から考え直し、まったく別の価値を持つ空間を生み出す行為です。

リノベーションとは、ただ単に中古住宅を改装する行為ではありません。過去に建てられたストックを活かしながら、場所・お金・インテリア等を上手に組み立て、自分だけの「理想」の生活をつくり上げる行為なのです。家をステイタスや人生のゴールと考えるのではなく、都心で心地よい住まいを求める人々には、合理的かつ広大な可能性を秘める手法です。